悪性リンパ腫に新たな治療薬!

悪性リンパ腫に新たな治療薬!

ALK阻害剤アレクチニブが再発・難治性ALK陽性未分化大細胞リンパ腫に対し薬事承認を取得

[研究者] 国立病院機構名古屋医療センター / 永井 宏和

[更新日] 2023.08.08

重い病で度々聞く「悪性リンパ腫」とは

血液中のリンパ球ががん化するという病気で、主に抗がん剤治療が行われます。しかし、およそ3割は再発や治療が効かず苦しんでいる患者がいる現状です。

現在発見されている遺伝子の中にはがん関連遺伝子といわれる遺伝子がいくつか存在し、悪性リンパ腫の中にはALKと付けられた遺伝子が原因となりがんを発症していることがあります。それはALK陽性未分化大細胞リンパ腫と呼ばれ、稀な病気になるため、これまで治療法が進んでいませんでした。

ALK遺伝子は正常な状態では必要に応じて細胞分裂をする性質を持っています。しかし、何かをきっかけにほかの遺伝子と融合してしまうとALK融合遺伝子になってしまいます。

このALK融合遺伝子から作られる異常タンパク質は、細胞増殖のスイッチを常にONにしてしまい、次々に異常細胞を増やしてしまいます。

そうなる前に異常タンパク質と先に繋がり、細胞増殖のスイッチをOFFにするという機能をもった薬が存在します。それがALK阻害剤です。

ALK阻害剤のこれまで

肺がんでもALK融合遺伝子があることを発見したのは、実は日本人の研究者なのです。
研究論文発表後、肺がんの治療薬として国外ではすぐに人を対象とした研究(臨床研究)が開始され、それに続いて国内でも臨床研究が開始し、開発が進みました。
国外では2011年にALK阻害剤「クリゾニチブ」が承認されて使用されました。2014年には国内の製薬会社が有用性の改善を目指し開発した次世代のALK阻害剤「アレセンサ」が先駆けて承認され、新たな肺がんの治療薬として推奨されました。

実はALK融合遺伝子はもともと2005年にリンパ腫で発見されました。しかし臨床研究は進まず、のちに肺がんにおいてALK融合遺伝子が発見されたことにより臨床研究が進み、再度注目が集まりました。

アレセンサはクリゾチニブに比べ、副作用が少なく、有効性も高いと報告があがっていたので、医師たちは同じALK融合遺伝子の疾患ならばALK阻害剤の効果は高いと期待していました。しかし、症例が極めて少ない希少な疾患であるため、製薬会社主体では採算が合わず、開発研究は進みませんでした。

そこで医師たちは仲間を集い、多くの病院へ呼びかけ共同となって、治療開発の準備をしました。保険診療で使える薬にするための臨床研究には莫大な資金調達が課題になりますが、国の公的機関(AMED)から研究費を獲得し、製薬会社からALK阻害剤の無償提供を受けることで臨床研究は進みました。

こうして医師が主導となる臨床研究は完遂され、悪性リンパ腫(ALK陽性未分化大細胞リンパ腫)に対してアレセンサが医学的に効果が認められ、使用の対象になりました。

たとえ希少疾患であっても、効果がある薬剤を患者さんに届けたいという関係者たちの強い想いが原動力となり、ようやく薬が使えるようになるのです。

「アレセンサ」という治療薬の功績

【研究成果】2015年から始まり2019年6月に承認
悪性リンパ腫(ALK陽性未分化大細胞型リンパ腫)へのALK阻害剤「アレクチニブ」対して薬事承認が取得でき、ALK阻害剤に対して保険が適用されるのは世界初です。
※製品名:アレセンサ/一般名:アレクチニブ塩酸塩

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